ご挨拶
とりわけ若い世代の皆様に、そして海外の皆様に京文化-茶道・日本舞踊・邦楽など-を知っていただきたいとかねがね考えておりました。
そして海外公演で多くの皆様の絶大なる拍手を聞くごとに-とりわけ1999年パリ公演、2003年のオーストラリア・ブリスベンで開かれたロータリークラブの国際大会の舞台に立ち、この思いは大きく膨らみました。
京文化は目上に対する礼儀を重んじ、常に他人を思い遣り自然の移ろいに感動する心を大切にします。この心こそ、私達日本人として忘れてはならないものではないでしょうか。
私達京都文化企画室のスタッフは皆様とご一緒にこの心を大きくはぐくんでいくお手伝いをしたいと思っております。
京都文化企画室理事長
西川 鯉
「京都文化企画室」の活動に期待して」
インターネットの普及とともに、経済・金融だけでなく、文化もまた急速にグロバライゼーションの波に洗われている。世界中が「便利さ」や「効率性」を追い求めた結果、世界のどの都市に行っても、町並みや人々の生活が同じようになっていく。便利になることは悪いことではないが、それと引き換えにぼくたちの身のまわりの文化や、その地独特の生活様式が失われてしまってよいのだろうか。
あなたやぼくが生まれ育ったこの国には、間違いも少なくはないが、継承し育てていくべき文化もあったはずだ。アメリカの文化に親しみ、それを身につけることに慣れてきてしまったぼくたちは、それだからこそちょっと足元を振り返れば、日本の文化をもっと楽しめるはずだ。
とくにこの京都には、千二百年以上の時間をかけて、この地の自然や生活に適合して、町衆たちが育ててきた文化がある。ガイドブックのなかの「京都」でなく、はんなりとしてたおやかな、しかし常に未来に向けて先端的な京文化は、日本だけでなく、世界でも独創的なコンテンツだ。そして、それをこの時代に失わず、近未来に手渡していくのは、ぼくやあなたの楽しみだと思う。
それを「守るべき義務」だというのは欺瞞だ。「伝統」や「古典」という美しい言葉が、どれくらい京都をダメにしてきたか、ぼくたちは今一度考えてみる必要があるだろう。それらの言説にあぐらをかいて、今日まで京の芸人や町衆が命をかけて創造し、改革してきた文化を、今の京都は既成の権威の維持のために使い、この街を疲弊させてしまったのではなかろうか。「伝統」は決して変えてはならないものではなく、むしろ人々の日々の工夫によって、つねにその時代を刺激するように、新しく改変されてこそ生き続けることができる。残念ながら、今日の京都には、その先人たちの激しい創造、改革の意欲が失われているように、ぼくは思ってきた。
だが、今この古都に、小さいけれど、一筋の光明を感じさせる町衆自身の創造拠点が出現したのを知ることができた。それが、西川充さんによって創出されたNPO法人、京都文化企画室だ。このささやかな試みが、少しづつこの街の先人たちの創出した文化、芸能を今日の京に蘇らせ、現代の視点から改変し、おのずから創造し、世界に発信するための拠点となって、日本の街々に、世界中の都市へ広がっていくことを、こころから期待したい。
関西学院大学 名誉教授
公益財団法人山階鳥類研究所 理事・シニアフェロー
京都文化企画室 顧問
奥野卓司